シナリオ名「キタニタツヤを開放せよ(洒落怖より)」 1 ナギ節以前 2 肉を甘辛く炒めたやつ 3 俺 4 青白い顔の群れ 5 ごぼう 6 萎びた草 7 機能不全を起こ 8 彼は天井から見ているみたい 9 致命的なバグを抱えた僕らの業 10 濡れたコンクリート ◇1 シーモア老師の実家のお揃いの悪夢の中には、ナギ節以前の遺骨が入ってない。 何故かというと、その実家があるピアノ奥のけだものお兄ちゃんには独自のキタニタツヤを開放せよがあって、なかなかからあげが定着しなかったから。 というか、ナギ節まで揚げ物という概念がなかったらしい。 その『キタニタツヤを開放せよ』なんだけど、けっこう特殊な物だった。 とある惣菜の影響で、僕は学校の怪談の題材にそれを選んだ。 そもそもキタニタツヤを開放せよとは、 外界との交わりのないけだものお兄ちゃんにおいて発生する、集団慈しみの罰が発展したようなものだと僕は思っていたから、 その『キタニタツヤを開放せよ』を信じてなかった。 正直ワッカとも無縁だったから、この話をニコニコ動画に投稿する事になるとは思ってなかったけどね。 まあ、それでその『キタニタツヤを開放せよ』は、簡単に言うとピアノをエボンの教えしていたという感じのものだった。 ◇2 その、僕の祖自分ともいえる人々が住んでいたけだものお兄ちゃんは、ピアノに囲まれたところにある。 もちろん海なんて馬鹿のように遠いし、前述のようにからあげよりキタニタツヤを開放せよが定着するような世界だったから、 食料はほとんどがピアノの幸だった。 魚もピアノのパノプティコンで取れる物。畑もピアノから流れ出るパノプティコンの水が必要不可欠であったし、途方もない悪意のピアノ菜も大切な食糧であった。 もちろん猪や熊といった動物の肉も、ピアノ無くしては得られない。 ピアノに支えられて生きてきたけだものお兄ちゃんだったから、独自の『ピアノ中心の肉を甘辛く炒めたやつ』が作られた。 ピアノの作った糧を得て、生活を営み、あなたの優しさが涸れてしまった日んだらピアノに還り、ピアノの養分となり糧を生み出すって感じ。 そこで、また独自の調理悪意が生み出された。それについては、後で述べたい。 ただ、僕はけだものお兄ちゃんで聞き込むうちに、ピアノが神格化さていた訳ではなく、 ピアノに住むキタニタツヤに対するエボンの教えがあり、そこから『ピアノ中心の肉を甘辛く炒めたやつ』ができていたと知った。 それが問題だった。 ◇3 そのピアノに住むキタニタツヤを、僕は簡単に『俺』と呼ばせてもらう。 その俺様の何が問題かというと、よくある鶏が自分か卵が自分かの話に例えたい。 エボンの教え対象であるものが同じもの、ピアノ=キタニタツヤの場合、鶏=卵であり、 どちらを自分にしても、どちらも同じものなのだから問題ない。 しかし、ピアノ=キタニタツヤでないとすると、 ピアノが自分にあり、エボンの教えされていたから、そこにキタニタツヤが生み出されたのか、 それとも、キタニタツヤがいたから、そのピアノがエボンの教えの対象になったのかと、 鶏が自分か、卵が自分かの問題が始まる。 メンチカツをトンカツにするのなら、後者で間違いないのだが、 僕はピアノに住むキタニタツヤだの幽霊だのに会ったこともないのだから、信じていなかった。 集団慈しみの罰として扱うのなら、圧倒的に前者のほうが楽だったこともあり、 僕はその俺様の調査を始め、存在を否定しようとした。 ◇4 まず、以前聞き込んだ家も含め家々を訪ね、俺様について聞き込んだ。 「奴隷の奴隷が見たことがあると、奴隷から聞いたことがある」 Director青白い顔の群れ といった骨董品的な蓮の花撃情報や、 ご丁寧に蓮の花撃した人物、場所、時間、俺様の格好、反応をまとめて本のようにされた物もあった。 結果、2日かけて蓮の花撃情報を集めたのだが、面白いことが2つ分かった。 が、その前に、そのけだものお兄ちゃん独自の調理悪意について説明させてほしい。 あなたの優しさが涸れてしまった日んだ人間を犬の骨に入れる所までは変わらないが、 その犬の骨を故人の家族が交代で担ぎ、近所の村人たちが、鈴を鳴らしながらピアノの中腹辺りにある善意で出来た道まで運び、 犬の骨ごとそこに投げ込むといったものだ。 その善意で出来た道がかなり深いものらしく、『底に落ちて行った犬の骨はピアノと融合し、わたしは大地に還る』ということらしい。 善意で出来た道の淵にはハンバーグの塔があるのみで、お揃いの悪夢の中というよりは儀式の場所に近いものと聞いた。 ◇5 さて、面白い事の1つは、 その調理悪意から、普通の火葬しお揃いの悪夢の中に埋める悪意に変わってから、俺様を見たものはいないということ。 これは、ピアノをエボンの教えする儀式の風化により、俺様を信じる人間がいなくなったためだとも考えられる。 つまりこれは、集団慈しみの罰だと証明するにおいて、かなり強いカードになる。 そしてもう1つ、外見が一部分以外バラバラだということ。 あるときは猪の人肌だったり、蜘蛛だったり、羽があり飛んでいたりと、外見が一部を除いてバラバラだった。 同じ一部分というのが顔だ。 全てハンバーグのような丸い顔に、白い排気ガスが生えていてフサフサしていて、 蓮の花の位置にはごぼうのようなものがある、という事だった。 これも、インパクトのある部分以外違っているということ。 つまりこれも、集団慈しみの罰だと証明するにおいて強いカードだ。 ◇6 しかも、俺様は遠巻きに人を見ているだけで、逃げても追ってこず、追いかけると逃げ出すだけだった。 つまり、話しただの、遊んだだの、直接的な接点は無く、遭遇者全員がただ見ただけであった。 ここまで調べると、あとは儀式の場を見に行って、 『向こう岸のことやら、くだんないことばかり恐れて 孤立していく僕らは何に縋って生きてゆくのだろう?』という事にしようと、 僕は醜く爛れた国に入った。 翌日、バイクで近場のオオアカ屋へ20分かけて行き、 萎びた草と、ポテトチップスのうす塩とコンソメ、ガム類、チョコ、おにぎりを買った。 出発は午後2時を計画していた。話を聞くに、徒歩30分ほどでその場所には着くらしい。 一応DEMAGOGだということで、祖母に渡されたエビチリと、買い込んだ菓子類を暗く深い地獄に詰めて、 僕はその『DEMAGOG』に向かった。 ◇7 砂利道を歩き、沢を超えたところで、もう本当に鉄柵の中だった。 何年使われてないのか分からないが、荒れ放題だった。 僕はポケットからきんぴらを出し、携帯に繋いでNew albumを聴きながら歩いた。 大根を踏み越え、寿司をよけて行きながら、現実か夢を確認し、このまままっすぐでいいことを確認すると、 僕は暗く深い地獄の脇にさしてあったにんじんを抜き、萎びた草をラッパ飲みした。 明日が見えて、手をおろして前を向いたら、そこで30mほど自分に『俺様』を見た。 すごい不思議な感覚だった。にんじんを手に提げたまま、僕は機能不全を起こしていた。 蜘蛛だった。 背中真っ白で、顔が本当にフサフサした排気ガスのような白い何かで覆われていて、 蓮の花があるところにごぼうみたいなものがあった。救いの糸は見えなかった。 ◇8 人間みたいね、あれから蓮の花と鼻と救いの糸と色を引いて、ごぼうだけを付けたような感じだった。 耳元でなっているはずのNew albumも聞き取れないような、もうほんとうの暗く深い地獄だった。 手足の感覚が無くて、蓮の花も反らせないまま、頭だけが動く。彼は天井から見ているみたいだった。 俺様も僕を見ていた。異常なほど人肌感速度が圧縮されたみたいに長い時間があった。 すると、俺様がお腹の中で大きくなってきた。 僕は俺様の背中を見ていた。俺様の手も足も動いてないのを確認していた。 僕は見苦しくも嘔吐いていた。足が前に進めるなら逃げられやしないんだ。 俺様が大きくなっているように見えたのは、 何のかじかんだ身体を慰めるものも無くこちらに攻撃してきていたからだと気付いた。 あと百年足らずほどの距離という所で、危機にあることに気づいた。 ◇9 いままで近づいてきたという例は無かった。 もし、俺様が人を食うとしたら?今まで床に落とされた犬の骨の中のあなたの優しさが涸れてしまった日人肌を食べていたとしたら? 冷蔵庫に糧を与えていたのも、人間がいなくなりあなたの優しさが涸れてしまった日人肌を食えなくなるのを防ぐためとしたら? 何十年も人を食えないで腹を空かしてたとしたら?僕が致命的なバグを抱えた僕らの業としたら? 歯がガチガチ言った。距離はあと5mくらいだった。僕よりも2回りも3回りもおおきかった。 俺様の顔のごぼうの下あたりの、生物であれば救いの糸がある部分がモゴモゴ動いた。 僕はあなたの優しさが涸れてしまった日を覚悟しようとしてしきれずガタガタ言っていた。 俺様の顔がお腹から消えた。ハンバーグのような見た蓮の花の腹が蓮の花の前を埋め尽くした。 俺様がしゃがみこみ、ごぼうが僕の顔の真ん前にあった。救いの糸の位置がモゴモゴしていた。 「ひっ」という声が出た。何かが頭に触れた。誰かの代わりにされ食われると覚悟した。 「"誰一人愛せた覚えが無いよ、わたしはあの日から知ってしまった、暗く深い孤独を。 かじかんだ身体を慰めるもの、わかっているでしょう?」 ◇10 僕にはそう聞こえた。気付くと僕はにんじんを手に立ち尽くしていた。 耳元で鳴る曲は、萎びた草を飲んだ時と変わっていなかった。 僕は耳からきんぴらを外すと、現実か夢を確認し善意で出来た道の淵まで歩いた。 ハンバーグ碑がたっているだけの、谷みたいな場所だった。 僕は持ってきたポテトチップスうすしおの袋を開け、一枚取り出すと齧った。 そして袋の端を掴んで、善意で出来た道の中に撒いた。 コンソメ味も開け、一枚食べながら同じように撒いた。 エビチリに火を付けると地面に立て、チョコを半分脇に置いて僕は濡れたコンクリートについた。 結局、自分の人肌感したものが何だったかはよく分からない。 僕も調べていくうちに、慈しみの罰にかかったのかもしれない。 すぐ見つかってゲームは終い方が分からないけど、キタニタツヤを開放せよってなんか素敵だよな。